January 23, 2011

ヒッコリーハッカースの記憶

ヒッコリー・ハッカーズは

Hickory Hackersと表記します。

競技の詳細は後述します。

私がアメリカから日本にアンティークゴルフクラブを

紹介した理由の一つに、

日本にもヒッコリー・ハッカーズ人口を増やして

日米の対抗戦を行うという

ボブ・クンツの野望がありました。

その野望は紹介から30年を経た今日でも

未だ実現はしていませんが、

私が生きているうちはなんとかしたいと

思うようになりました。

ただし、私の知る限り、

ちゃんとしたクラブをもっていて、

参加可能なメンバーは今も昔も、

私とヤマニくんしかいないので、

アメリカと戦うチームを作るためには、

少なくともあと２名は必要です。

ましてや、日本人だけで、

ベストボールのトーナメントをすることになると

最低でも５チーム２０人は必要です。

途方もない数字に思えますが、

地道に仲間を増やして行きたいと思います。

というわけで、これから紹介するのは、

ゴルフマガジン1986年9月号に掲載した

私のヒッコリー・ハッカーズに関するエッセーです。

*****

　ヒッコリー・ハッカーズ

なんだか耳なれない言葉だが、

要はヒッコリーシャフトを使ったクラブで

ゴルフをする大会のこと。

アメリカでは１９７１年から

ゴルフコレクターズ・ソサエティの

会員たちが行っており、

愛好者は３００人といわれる。

ゴルフの原点に思いを馳せる

一風かわった世界へご案内しよう。

ヒッコリー・ハッカーズ

ゴルフの原点へタイムスリップ

風の中の魔術師

ゴルフコレクターズ・ソサイアティの

オハイオミーテイングの初日は

ヒッコリー・ハッカーズに当てられている。

その日、５月１日は

朝からの雨が上がったとはいうものの、風が強く、

いくら４人のベストボールで争われる大会とはいえ、

優勝スコアはイーブンパーあたりに

落ち着くのではないか、

という予想が大半を占めた。

サイトのアザレアＣＣもクリーブランド地区では

上位にランクされる難コースである。

　参加者は76名、19組。

人数が割り切れたのは、足りない分を

参加者のワイフで補ったことによる。

足りないクラブはボブ・クンツから借りたのである。

彼はいつもトランクー杯の

ヒッコリーシャフトのクラブを侍ってくる。

チームの構成は、自然発生的に、

強い者は強い者と、

弱い者は弱い者同士が組むので、

悩むことではない。

従って、優勝を現実のものとしてとらえていたのは、

ボブ、バット、ハロルドが率いた３チームであった。

ちなみに僕はバットのチームに入っていた。

　服装は、言うまでもなく、

ニッカボッ力が理想である。

しかし、急きょ参加を余儀なくされたワイフや、

員数合わせのために、

チャーターされたアザレアＣＣのメンバーは

日本のゴルファーと同じ格好をしていた。

　ベストボールは娯楽としては

最高のゲーム方法であると思われる。

得意なことが一つあればチームに貢献し、

ひいては勝利につながるのだ。

今回も80歳になるラルフと

呼ばれる老人がプレーしていた。

彼がしたすべてはパターとチッピングだけであった。

ほかのことはカートに座って見ていた。

従って彼がコースにもってきたのは、

パターとニブリックの２本のみである。

彼は、この数年間『リンクスの魔術師』と呼ばれ、

信じられないようなパターとニブリックの技で

優勝に貢献してきた。

しかし、今年は風が強すぎて足元が定まらず、

何も出来ずに終わった。

彼のいないハロルドのチームは取るに足らない。

２オーバーでホールアウトした。

　バットのチームには僕の外に、

ボンドとハンクがいた。

ボンドは昔プロで鳴らしたワザ師で

どんな球も自由自在である。

170ヤード以内はうまい。

バットはこのクラブに属し

コースのすべてを知り尽くしているので、

案内者として言うことはない。

僕はウッドが飛ぶので、

ドライバーとフェアウェー・ウッド要員として

期待されていた。

三者三様に選ばれた理由があるのに、

一人このハンクは分からない。

パター要員であったジェームスが

来られなくなった代わりにきてもらった

というわりには、もうひとつ冴えない。

これがたたってフロントナインは

イーブンパーであった。

一つ残った対抗の、我々の前を行く、

ボブのチームは２アンダーであった。

　フロントナインは地元のテレビ局が、

ヒッコリー・ハッカーズの特集番組を

組むということで、ぴったりと付き添っていた。

９番ホールの脇で最後のまとめを

バットがキゃスターに説明していた。

これが１時間を要したので、カートに座って、

ほかの３人はジュースを飲んでいた。

するとハンクは、寒い寒いを連発しながら、

自分のロッカーからバーボンを特ってきて飲み始めた。

これからは、いよいよ３人で

闘わなければならなくなったと僕もボンドも思った。

　バックナインに入ると風がますます強くなり、

ショットがぶれるようになってきた。

僕のドライバーも林を直撃しだしたし、

ボンドのアイアンもグリーンをはずしだした。

ところが、顔をバーボンで赤らめたハンクが、

バッティングに冴えをみせはじめたのである。

10番は30フィート、12番は25フィート、

15番は20フィート、17番は35フィート、

18番は15フィートのバーディパットを

次々に決めたのである。

途中３回ほど本立の中へ、小用に消えながら。

バットが、あれが酔っ払うと

信じられないことが起こる、

と12番のグリーンでささやいたのを覚えている。

　クラブハウスに引き上げてくると、

成績の集計が始まっていた。

ボブのチームは３アンダーで

完全に優勝したと思って、

優勝楯に入れる文句を考えていた。

バットが５アンダーとスコアを告げた時の

ボブの顔が忘れられない。

　それ以後、ハンクは『風の中の魔術師』と

呼ばれるようになった。

５アンダーを出したパターは

ジョージ・ニコルの１９２５年モデルで、

ボブの所有だったのを、

試合の後に買い取って、

マントルピースの上に優勝楯とともに

飾っているという。

　酔っ払った方が調子が良いなら、

何故最初からそうしなかったか、

という問いに対して、

テレビカメラの前で用は足せないだろう、

という答えの返ったとき起こった歓声が、

ほぼ同時刻、

クラブハウス前で起こった衝突事故に

深く関連しているという推測は

考え過ぎであると思われる。

以上

1986年９月号 ゴルフマガジン PDF